本来無一物:「ゆるく考えよう」(ちきりん氏)

有難いことに、縁あって今や月間200PVを誇る超人気ブロガーちきりん氏の「ゆるく考えよう」(イースト・プレス2011年)を拝読させていただく機会に恵まれ、思いがけず、ちきりん氏の深い愛情に接することができましたので、ここに感謝の念を込めて、読後感を記しておきたいと思います。

 

本書は、ちきりん氏のブログ「ちきりんの日記(http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/)」のエントリーをベースに構成されていることもあり、①自由、②多様性、③変化、④アウトプット、⑤リーダーシップといった、ちきりん氏が“善なるもの”として尊重しているテーマについて書かれています。

 

ちきりん氏の魅力は、そうしたテーマを主張する際に、例えば「多様性って大事よね」というお題目を唱えるかわりに、それを阻碍している画一的・硬直的な規範(といわれているもの)を自分の手で次から次へとエグり出してきては、一つ一つに強烈なグー・パンチを浴びせ続けていくところにあると思われます。

 

ちきりん氏の主張に、逆説的・反語的なものが多く見られるのはそのためでしょう。

(本書のタイトル『ゆるく』考えようも、社会が押し付けてくる画一的・硬直的な規範(といわれているもの)から自由になりなさい、自分の基準をもって人生を楽しみなさい、との命令形にほかならないですし・・・)

 

一人の人間が、多様性が尊ばれる社会で自由に生きていくためには、社会を構成している一人一人の人たちに、画一的・硬直的な規範(といわれているもの)に自覚的になってもらわなければならない、という強い思い(=自分が伝えたいこと)があるからだと思われます。

 

ちきりん氏のそうした強い思いから繰り出されるグー・パンチの破壊力の凄まじさには、爽快感が得られます。

そして、その爽快感とは、ちきりん氏のコトバに操られて、いつの間にか自らがリングにあがって画一的・硬直的な規範(といわれているもの)に拳をたたきつけるボクサーに変身させられているからだと考えられます。

 

本書やブログの読者が、そんなボクサーに仕立てられて、喜びを感じてしまうのはナゼでしょう?

それは、ちきりん氏が、ピュアな『欲望を取り戻せ!』と叱咤してくれているからだと思われます。

“ピュアな欲望”とは、何よりもまず、“生きたい!”と思うこと。

つまり、ちきりん氏は、われわれ一人一人に“生きたい!”と思って欲しい・・・という深い愛情の持ち主に他なりません。

 

そんな慈悲の女神のごときちきりん氏が、読者をメロメロにしてしまう本書のクライマックスは、ラストの『旅の効用』でしょう。

異国の空の下、行き倒れ寸前のちきりんに「死んじゃヤダ!」と胸が張り裂けそうになり、直後、“本来無一物”(http://f.hatena.ne.jp/duck25/20130502134618)の悟りの境地に達したちきりんによってもたらされるカタルシス!

 

ああ・・・一人でも多くの方に本書(そしてブログ)をお読みいただき、何ものにもとらわれない「精神の自由」を体験すべく、飛び立っていただきたいと願う私であります。